SSブログ

「労働ダンピング」 ・・・ 労働は商品ではない [仕事]


労働ダンピング 雇用の多様化の果てに / 中野 麻美
1.My Review Rank : ★★★★☆ + 今後、正規雇用はどうなるか
2.Published Data : ¥819, 237Page,岩波書店,’06/10
3.Review Point : 昨日(12月16日(土))の日本経済新聞5面に、「労働時間規制の除外 年収800~900万円以上に絞る. 厚労省が最終調整」と出た (まずは、"ほっ"とした方も多いのでは).
 分かりやすく言うと、最近、週刊誌上でも騒がれている 「ホワイト・カラーの残業代が無くなる!」 のこと. 年収800~900万円の民間雇用者は307万人5%程度のため、影響は限定された形で制度はスタートする.
 *制度の正式名称は、労働時間規制の適用除外制度(日本版 ホワイトカラー・エグゼンプション (White Color Exception)).
 更に、記事では、「雇用の金銭解決見送り」と有り、「正社員と言えども、年収の2倍の解決金を積めば自由に解雇出来る」 ことは見送られた.

 本書での 「非正規雇用(パート・派遣労働者)の実態」「非正規雇用の正規雇用(正社員)への影響」 を見ると、ホワイトカラーの雇用のダンピングが今後着実に進むことは確実. 自分の労働条件がどの様に変化するか考えましょう.

1) 派遣労働に関する法制定・改定 ・・・ 制度の規制緩和は止められない.
 「労働者派遣」は、20年前の1986年 「労働者派遣法」により合法化された. ポイントは、派遣労働者の労働条件が、派遣元と派遣先との商取引契約の「労働者派遣契約」で決められる点.
 この制度により 「労働が商品となり、ダンピングの対象となった」 .(例えば、会社が正社員の採用面接で、「あなたは年収いくらで働いてくれますか」と尋ね、安い人から採用する事と同じ)
 同じ1986年には、「男女雇用機会均等法」の制定 及び、「労働基準法」の大巾な規制緩和も 「労働者派遣法」を補完した.

 「労働者派遣法」は、1986年の制定時には、派遣対象が専門性を必要とする26業種等に限定されていたが(ポジティブ・リスト方式)、1999年には、派遣を禁止する業種以外は自由となり(ネガティブ・リスト方式)、派遣可能な業種が大巾に拡大した(当時「派遣対象の自由化」と騒がれた).
 更に、2003年には、派遣可能な期間が延長された(1年⇒3年). 一旦、制度が制定されると、緩和は止められない.

2) 非正規雇用の特徴 ・・・ 何故ダンピングされるのか.
 非正規雇用は、以下の3つの特徴により、ダンピングされ易い.
 ①短時間労働性
 元々、仕事と家庭との両立しようとする女性の"パート労働"の賃金水準が契約社員,派遣社員にも適用され、家計の補助的賃金と見なされている.
 ②雇用の有期性
 過去の働きの査定の場として、契約更改時がダンピングの絶好の機会となっている.
 ③雇用の間接性
 派遣労働者の就業条件を決める「労働者派遣契約」は、商取引契約の性格を有し、「労働法」による競争抑制的な規制ではなく、 独占禁止法」による競争促進的な規制が働く.
 良質なサービスを低料金で提供すれば、消費者=派遣先の利益になるため、競争入札の様な取引が促進され、派遣労働者の労働条件に影響する.

4.Summary : 非正規雇用の拡大は、今後、正規雇用に大きく影響する.
1)非正規雇用と正規雇用との競合 ・・・ 正規雇用の融解が始まる.
 低コストでダンピング可能、「労働法」に基づく権利を保障する必要のない非正規雇用に対し、正規雇用の正社員は明らかに「高すぎる」.
 昇給含みの年功賃金や定年までの雇用を保証しなければならない正規雇用は、将来的に大きな重圧となる. 正社員は、 「人件費分だけ働いているか」 が、常にシビアに問われ、生き残るためには、自らを非正規雇用と差別化出来なければならない.
 現在、成果主義的な賃金制度が企業で導入されているものの、正規雇用の労働条件を大巾に変えるものとして、経済界の強い要望で、上述の「労働時間規制の適用除外制度」 及び、 「雇用の金銭解決制度」が導入されようとしている.

2)米国のホワイトカラー・エグゼンプション ・・・ 日本もここまで緩和される.
 労働時間規制の除外は、報酬ベース, 報酬水準, 職務 で決められる.
 直近の規制緩和は2004年に実施され、報酬水準は、週給455㌦(単純に52週/年, 120円/㌦を掛けると、284万円/年)、職務は、管理職のみでなく、現場のリーダクラス, 会計・庶務の担当者まで拡大されている.
 "日本版"ホワイトカラー・エグゼンプションで、日本の経済界が主張していた年収400万円は、非常に低いと感じたが、米国の基準から来ていると推定される.

 著者は現在、NPO派遣労働ネットワーク(派遣労働者のための情報提供や相談等の活動)の理事長の立場のため、派遣労働の実態に詳しく、特に第1章の「いま何が起きているのか」での話は生々しい.

 巻末には、相談窓口が紹介されている(参考として).
 ①都道府県労働局
 「労働者派遣法」, 「雇用機会均等法」, 「パート法」 等に基づく、助言・指導・勧告を求めたり、紛争処理の申立て・相談の窓口となる(例:東京03-3814-5312).
 ②日本労働弁護団相談窓口
 曜日・時間が限定されるが、専門の弁護士が相談を受付け. 日本労働弁護団03-3251-5363
 ③NPO法人 派遣労働ネットワーク
 相談窓口は常設. TEL:03-5338-1266, サイトはこちら.
 ④日本司法支援センタ(法テラス)
 資力に乏しい人に、法律問題を解決するため法律扶助を行う. サイトはこちら.


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。