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「富の未来」 ・・・ 時間・空間・知識 [仕事]


富の未来 / アルビン・トフラー
1.My Review Rank : ★★★☆☆ +
2.Published Data : ¥1995, 426Page,講談社,’06/06
3.Review Point : 「未来の衝撃」 , 「第三の波」 , 「パワーシフト」 等の著書で有名な、アルビン・トフラーの最新刊(帯には"15年振り"と有る).
 上巻は、基礎的条件の深部に有る3要素の 「時間」 , 「空間」 , 「知識」 が変貌してゆく様を、世界各地の豊富な実例を挙げながら説明している.
 下巻では、資本主義の将来, 貧困 及び、中国・日本・韓国・欧州・米国に関する提言が有る.
 上・下巻( 「富の未来(下)」 )合計で、700ページを超えるボリュームを要約するのは難しいが、まずは、日本に関する提言は以下(一般的に指摘されている事でも有るが). 共通するのは構造的な問題.

 <非効率な国内産業> 日本は、極めて効率的な輸出産業と極めて非効率的な国内産業の混合により、機能不全に陥っている. 輸出産業は日本にとって重要だが、戦略の柱にはなりえない. 先進的な国内経済を築かねばならない.
 <構造の硬直性> 日本はほぼ全ての水準で構造的な硬直性という問題にぶつかっている.
 <意思決定の遅れ> 日本は集団的な意思決定を重視するため、決定に時間が掛かり、新しい情報や状況に対して素早く変化するのが難しくなる.
 <脱工業化> 工業時代の残骸である硬直的な規則が緩められるか、置き換えられない限り、明日への競争で遅れ続けるだろう.
 <男女間の分業> 職業・職場での硬直性だけでなく、もっと深い水準に有る家族内と男女間でも役割・構造を柔軟にする必要が有る.

 その他、国会で農業地域から選出される議員が多すぎる. 改革に抵抗する官僚, 過去の大企業を率いる白髪の経営者, 同じ教科を使って教えてきた教師 等々 古い制度に投資してきた勢力が変化に対して、頑強に抵抗している.
4.Summary : 「富の未来」の富には、3つの体制が有り、鋤(すき), 組立てライン, コンピュータ が各々の体制を象徴し、所謂、農業革命, 産業革命, 情報革命 後の世界を表している. 以下の言葉も引っ掛った.

 先進的な経済は先進的な社会を必要とする.  どの様な経済もそれを取巻く社会の産物であり、社会の主要な制度に依存している.
 封建的な制度は工業化の進展を妨げたが、今は工業時代の官僚組織が、知識に基づいて富を生み出す先進的制度への動きを遅らせている.

 著者の理論を裏付けする事象・情報を全世界から集めているが、まさにその場に居合わせる感覚を受けると共に、その情報力に驚く. 一度読んだだけでは、その情報量に圧倒される.


「ウイニー 情報流出との戦い」 ・・・ 情報流出の恐怖 [仕事]


ウイニー 情報流出との戦い / 湯浅 顕人
1.My Review Rank : ★★★☆☆ +
2.Published Data : ¥735, 190Page,宝島社,’06/05
3.Review Point : 2006年2月 海上自衛隊の内部資料がインターネット上に流出した. 中身は、隊員の顔写真付き詳細な個人データ, 艦艇編成一覧表, 非常呼集連絡網, 配布された告知文書 等々 国の防衛に関わる重要な情報 且つ、 300MBの大きなデータだった. このニュースによってウイニーが一般社会に広く認知された.

 1)ウイニーの基本動作
 ウイニー(Winny)とは、インターネット経由で、ユーザ同志でファイルを交換するソフト(名称はWinMXのMXを一文字進めたもの). 基本的な動作・構成は以下.
 ①アップ・ロード・フォルダの作成 (ユーザの手動) : 他人にあげる用フォルダで、ここにデータを置くと、他のウイニー・ユーザから見える様になり、ダウン・ロードが可能となる.
 ②キャッシュ・フォルダの生成 (自動生成) : ウイニーでダウン・ロードすると、ここにも全く同じデータが生成される. 次のユーザのダウン・ロード速度のUPのためだが、ここのデータもアップ・ロード・フォルダのデータと同様にダウン・ロード可能(裁判上ここがポイントになる).
 ③ダウン・ロードフォルダの生成 : 他のウイニー・ユーザのフォルダーからダウン・ロードしたデータ用フォルダ.

 2)ウイニー悪用ウィルス
 ウイニー単独では流出問題は起こらないが、ウイニーをインストールしているパソコンが「ウイニー悪用ウィルス」 に感染すると、情報流出が起こる(具体的な流出のシナリオは以下).
 「ウイニー悪用ウィルス」は、上記①のアップ・ロード・フォルダを自動的に生成 し、そこにパソコン内の情報を勝手にコピーして、他のウイニー・ユーザが見れる状態にしてしまう.

 3)情報流出のシナリオ ・・・・・ (4)以下が恐怖!
(1)ウイニー悪用ウィルスへの感染
 ウィルスは、ウイニー経由でダウン・ロードしたファイルに含まれており、ダブル・クリックで感染する. 通常は、出所・内容のはっきりしないものは実行を躊躇うが、ウイニーでのダウン・ロードに慣れてしまうと麻痺してしまう.
(2)個人情報の流出の発生
 上記の様に、アップ・ロード・フォルダに勝手にコピーされたデータが、他のウイニー・ユーザにどんどんダウン・ロードされる. しかし本人は全く気がつかない.
(3)Netの掲示板で話題になる
 面白い情報は、「2ちゃんねる」等の掲示板で話題になる. この話題になる事を「祭り」と呼ぶ. 面白い情報とは、会社の機密事項, 或いは、浮気等の極めて個人的な情報が多い.
(4)まとめサイトが出来て解析される
 掲示板で専用スレッドが出来る程 「人気」の有る流出情報は、誰かが 「まとめサイト」 を作り、 流出情報が細かく・徹底的に解析され、プライバシーは丸裸となる.
 デジカメ写真から、生活する地域, 所属する組織 等が推定されるが、送受信メールからは、具体的な住所・氏名・TEL・所属が判明するのみでなく、流出させた人の周囲の人間の情報も含まれる. この状態でも本人はまだ気づかない.
(5)私生活への影響
 まとめサイトを見た人の中で、流出元の人間を見てみようと、自宅や会社を訪れ遠くから写真を撮り、その写真をまとめサイトで公開する等して、「祭り」は更に盛り上がってゆ.
 この時点で本人に事態を知らせる人が出てきて始めて本人が気付く が、事態の収拾には完全に手遅れ.
(6)2次災害の発生
 流出情報は、本人のみでなく、周囲の人間にも迷惑や損害を与え、流出させた本人は「流出の被害者」のみでなく、「流出の加害者」としての立場にも置かれる.
(7)社会生活への影響
 会社にもウイニーの使用を知られ、友人・上司・取引先などの人間関係へ影響し、企業・学校・官公庁等 組織全体への影響が出れば、社会生活もままならなくなる.

 4)情報流出の対策
 (1)自分のパソコンでウイニーを使用しない.
 高価なソフトがタダで手に入る点がウイニーの魅力だが、上記の様なリスクを考え、ウイニーは使用しない.
 複数の人間が共有するパソコンでは管理者を一元化して「勝手にソフトをインストール・起動出来ない」様にする(例えば、家族が共有するパソコンで子供が勝手にウイニーをインストールしない様に).
 (2)ファイヤー・ウォール付きのウィルス対策ソフトをインストールする.
 ウイニーがインストールされていなくとも、情報流出を引き起こす新種のウィルスが発見された(2005年4月 「山田ウィルス」, 2006年2月 「山田オルタナティブ」). 感染したパソコンそのものをホーム・ページ用のサーバーにしてしまう. 今の所、ファイヤーウォールで防止可能.
4.Summary : 検索サイトを利用した 自分のパソコンの情報流出の確認方法は以下.
  「ユーザ名 キンタマ site:2ch.net」 で検索.
  「ユーザ名 まとめサイト」 で検索.
 *ユーザ名とは、ウィンドウズ起動時に、ログオン画面で表示される名前.
 *組織名は、「コントロール・パネル」から「システムのプロパティ」を表示. 「使用者」の2行目のもの.
 *キンタマとは、自分のデスク・トップの画面を公開する遊びを「キンタマ」と呼んでいた. デスク・トップ画面を流出させるウィルスの名前でも有る.

 ウイニーは、東京大学大学院助手の金子勇氏が2002年5月に発表した. 機能的にはWinMXのファイル"交換"から、ファイル"共有"へと進化した. 金子氏は、天才プログラマーの経歴を持ち、ハンドル名 「Neko」 で多くのフリー・ソフトを公開している.
 2003年11月27日ウイニーのユーザ2名が著作権法違反容疑で逮捕された後、2004年5月10日に著作権法違反幇助の疑いで逮捕された. しかし、著者は以下の様に指摘している(全く同感).
 特定の場所(会社)でのみ保管・使用されるべき情報が一個人の家に "一次流出" し、その流出したデータが、ウイニーというソフトによって "二次流出" したと考えるべき. その一次的流出にも多大な責任が有る.
 先の流出事件を受けて、防衛庁で実態調査すると、職場で7万台(!!)の私物パソコンが使用されていた(おそまつ). 防衛庁は、2006年度中に私物パソコン無くすため、パソコンを支給するという.


「会社法入門」 ・・・ 基礎知識 [仕事]


会社法入門 / 神田 秀樹
1.My Review Rank : ★★★★☆ +
2.Published Data : ¥777, 214Page,岩波書店,’06/04
3.Review Point : 2006年5月に「会社法」が施行された.
 「会社法」に関する本が書店に数多く並んでいるが、「会社法」 の中身, 背景 或いは、今後の展望にも触れている本書がお薦め(実際にベストセラーとなっている).
 1)会社法改正の背景・位置付け
 今回、商法の中の会社に関係する部分を切り出して、「会社法」と独立させた背景は以下の2点 (Key Wordは、競争力UP, IT革命対応, 資本市場拡大対応).
 ①経済政策のインフラ整備
 従来の会社法(商法の中の会社に関係する部分)は、関係者間の権利・義務関係を規定する基本的な「私法」だったが、国の経済政策の重要な制度的インフラとして重要となってきた.
 具体的には、97年以降の相次ぐ商法の改正で損なわれた法制上の不整合を再調整する. また、実務界からの要望(合併時の対価の柔軟性等)に答えている.
 ②グローバル経済での競争力確保
 IT革命を背景として、各国の大企業間の競争が国境を越え激化している. また、各国の市場規模が拡大しており、自国企業が国際競争に打ち勝つため、各国で「会社法」の位置付けが重要となっている.
 2)会社法の目的
 会社法の目的を一言で言うと以下(主要な形態の株式会社について).
 会社法は 「株主がお金を出し、それに基づいて会社の運営を決め、会社が゙活動する」 という面についてルールを定めている. 更に、株式会社の形態の特質(下記の5点)による長所を伸ばし、短所(問題点)を解決する.
 3)会社法改正のポイント
 今回の会社法改正のポイントは以下の2点.
 (1)コーポレート・ガバナンス
 「コーポレート・ガバナンスの有り方が企業の競争力やパフォーマンスに影響を与える」 との考え方に基づき、会社法改正の方向性は以下.
 ①組織形態, 組織再編の自由度UP.
 ②機関設計の自由度UP.
 ③種々の自由度の拡大と引換えに、経営の透明性と説明責任.
 ④会計の適正化.
 ⑤内部統制システムの機能(大規模会社に対して).
 取締役等は経営責任に対して、過失責任である(過失が無ければ責任を負わない)⇒内部統制システムを整備しておけば、経営上のリスクを負える.
(2)機関設計
 最低限の機関設計だけを要求し、一定のルールの元で各々の会社が任意に各機関(取締役(会), 監査役(会), 会計監査 等)を選択出来る. 機関設計に当たっては、会社の規模の大小(大会社は「資本金5億円以上」 or 「負債総額20億円以上」)と公開性の有無(公開会社とは「株式の譲渡制限の全くない会社」)で規律を分けている.
 具体的には、大会社では以下の2パターンとなる.
 ①取締役(会)+監査役(会)+会計監査人
 ②取締役会+3委員会(指名, 監査, 報酬)・執行役+会計監査人
 4.Summary : 基礎的事項として、株式会社の特質は以下の5点.
 1)出資者による所有
 出資者とは「株主」.
 2)法人格の具備
 法人格とは、"団体自身が権利を有し、義務を負うこと" . 法人格という考え方により、権利・義務関係の処理が明確になる.
 株式会社では、株主が法人としての会社を所有し、その法人としての会社が会社資産を所有するという「二重の所有関係」により構成されている.
 3)出資者の有限責任
 株主は出資額を超えて、会社債権者に対し責任を負わない. 有限責任により、出資者のリスクを抑え、会社の資金調達を容易とする.
 4)出資者と業務執行者との分離
 多数の株主が経営上の意思決定に関わることは多大なコストが掛かるため、出資者が多数の場合には、事業経営権を一部の経営者に集中させる.
 5)出資持分の譲渡性
 出資持分は株式という細分化された割合的単位とし、譲渡性・流動性を確保する(株券という有価証券. なお、2009年には株券の電子化がなされる).

 以下は、会社法の条文の配置(私の覚えとして).
  第1編 : 総則 (1~24条)
  第2編 : 株式会社 (25~574条) 従来の有限会社が株式会社へ統合.
  第3編 : 持分会社 (575~675条) 持分会社とは、合名, 合資, 合同会社の3形態.
  第4編 : 社債 (676~742条)
  第5編 : 組織変更, 合併, 会社分割, 株式交換及び、株式移転 (743~816条)
  第6編 : 外国会社 (817~823条)
  第7編 : 雑則 (824~959条)
  第8編 : 罰則 (960~979条)


「2015年のサムスン」 ・・・ Samsung Groupとは? [仕事]


2015年のサムスン / 成 和鏞 (著), 蓮池 薫 (翻訳)
1.My Review Rank : ★★★☆☆ + SONY と Samsung
2.Published Data : ¥1000, 317Page,光文社,’06/04
3.Review Point : Samsumgグループ (以下Samsumg)は、Samsumg電子を中核 として、企業総数は64社 (主な分野は、電子, 機械, 化学, 金融)、売上高は10兆円 ,資産規模は7兆円に達し、韓国経済の2割を占める.
 日本での Samsumg ブランドはマイナーだが、国際的には高級品 として認知され、SONYとの液晶合弁会社では主導権を握る実力を持つ.  一昔前の「韓国製は2級品」 のイメージは、Samsumgによって一新されている.

 Samsumgを理解するには李一族の3名がキーとなる.
 李秉喆 (イ・ビョンチョル) : Samsumgの創業者. 1910年大地主の次男として生まれ、早稲田大学へ留学・帰国後、1938年大邱(テグ)市でSamsumgの前身の「三星商会」を設立.
 李健熙 (イ・ゴンヒ) : 李秉喆の三男. 現Samsumg会長. 創業者 李秉喆 には、三人の息子が居たが、後継者として、李秉喆 自身の気質(鋭さ,厳しさ,激しさ)に最も似る次男を選ばず、三男の 李健熙 を選んだ. 長兄重視の韓国文化の中では難しい選択でもあったが、結果的には正しかった.
 李在鎔 (イ・ジェヨン) : 李健熙の一人息子. 次期Samsumgの経営TOPに確実になる人物. 人物評は、「謙虚, 誠実, 純粋」.

<Samsumgが強い理由>
 1)人と組織 ・・・ 統制され且つ柔軟な組織
 創業者 李秉喆 時代に作られた厳しい組織管理がまだ生きている. 李健熙 は、その緊張感が残る統制された組織に 「厳しい信賞必罰のみでなく、失敗した人にも寛大」 な柔軟性を与えた.
 一方、年齢や職位による給与の限界を全くなくし、社員の能力に見合った評価を行う(社長よりも給与の多い社員も居る). また、会社に反感を持つ社員(アンチ派)の比率が一般的な企業よりも低い(3割に対し1割)と言われている.
 2)水が漏れない ・・・ 不正には厳罰
 社員や取引業者が不正に関与したら Samsumgには永遠に戻れない(永久追放). 不正に対しては厳罰を処す.
 3)大衆の「名器」を作る ・・・ Samsumgブランド力
 Samsumgの携帯電話は、世界的シェアを持つモトローラ(米, 17.7%, 1億4千万台/年)やノキア(フィンランド, 32.5%, 2億6千万台/年)と比較して、高価だが、そのデザインの秀逸さから、欧米を中心にシェア(12.7%, 1億台/年)を伸ばしている(日本勢は、ソニーエリクソンがシェア5位で6.3%).
 このブランド戦略は、エアコン, 冷蔵庫, DVDコンポ等の電子製品更には、損害保険, 自動車保険等の金融サービスにも展開しており、 日本での認知度は低いが、欧米では、 「Samsumg製品は高いが、それだけの価値が有る」 と認められている.
 4)フュージョン経営 ・・・ 日米経営の融合
 李秉喆李健熙, 李在鎔 共に、まずは日本で学び、 "日本的な一糸乱れぬ組織体制", "徹底した上意下達の風土" 等 日本的なものに、米国的な成果・合理主義を融合させた.
 実際に、李健熙 はグループ会長に就任した際、GEを徹底的に学習し比較研究した. この時は、ジャック・ウェルチが1981年からGE会長に歴代最年少で就任し構造調整に取り組んでいた頃.
 5)構造調整本部 ・・・ 経営TOPの頭脳
 法務室(訴訟問題), 財務チーム(グループ全体の財務計画), 経営診断チーム(系列会社監視), 企画チーム(経営戦略と情報収集), 人事チーム(系列会社役員人事), 広報チーム(ブランド力の向上), 秘書チームの7つで構成され、李健熙 会長を補佐する.
 これらのチームの構成員は選任でなく、関連企業のCEO等からなる.
 *韓国国内の "Samsumg一人勝ち" への反発に配慮し、’06年03月その役割を大巾に縮小し「戦略企画室」として再編された.

4.Summary : 
<Samsumgの死角>
 1)市場を作り出せない.
 インテル, マイクロソフトは、創造豊かな技術力で市場を掌握し、新しい技術・性能の製品を出し、市場の他の企業を動かし支配する ことが出来るが、Samsumgには固有の技術・製品がない.
 2)グループの所有体制
 グループ企業が「循環出資」と呼ばれるリングを形成している. このため、李一族は、Samsumg電子の株の3.3%しか所有していないが、約16%の権利を行使出来る. しかし、法律の壁が有り、この循環出資が崩れる可能性或いは、M&Aで買収される危険性が有る.
 具体的には、李在鎔 は、サムスンエバーランド(テーマパーク)の株を25%持ち、サムスンエバーランドはサムスン生命の株式を19%持ち、サムスン生命はサムスン電子の株式を7%持つ. この様な形で支配力が増幅してゆく.
 3)政治関係
 Samsumgは政治に対して距離を置いてきた また、李在鎔 も政治に中立な立場を取ると思われるが、上記の不完全な支配体制(循環出資)等に関連して、政治とも関わりあいを持たざるを得ない. 政治とのバランスが今後もポイントとなる.
 4)韓国社会との不和
 「組合を作らせないSamsumg」, 「李健熙は、400億ウォンで高麗大で名誉博士号を手に入れた」, 「李健熙 から 李在鎔 への資産移動の際に脱税(節税)した」 等々 Samsumg一人勝ちに対する反発で、韓国内での敵対感情が激しい.
 Samsumgは、社員による社会奉仕,企業による寄付を行っているものの、韓国国内ではまだ認められていない.

 本書は、’05年8月に韓国で発売され、ベストセラー上位にランクされ続けている. また、広く世界でも読まれ、Samsumgが国際的に注目されていることが分かる. Samsumgへの関心が低い日本で、Samsumgを知るには良い本.
 翻訳者は、北朝鮮から帰国した蓮池薫氏. 本格的なビジネス書の翻訳は本書が初.


「技術空洞」 ・・・ 硬直した組織 [仕事]


技術空洞 Lost Technical Capabilities / 宮崎 琢磨
1.My Review Rank : ★★★☆☆ + VAIOの裏側
2.Published Data : ¥1000, 289Page,光文社,’06/04
3.Review Point : 5月19日アップルは、米ニューヨーク・マンハッタン五番街に旗艦店となる直営店を開き注目を集め、観光客でも賑っているとのこと.
 本書は、’98年にSONY入社し後、VAIO立上げに携わり、’05年6月にSONYを辞めたエンジニアによるもの. 内部から見たSONYを厳しい目で見ている.
 現在、日経新聞は企業面で 「ソニーは蘇るか」 との連載記事を組んでいるが、 "大手新聞と大手企業との関係" から、オブラートに包んだ内容にしかなっていないのは当然(ちっとも面白くない).

 著者の主張を整理してみると、SONY凋落の原因は以下の4点か.
 1)研究開発の御用聞き化
 「カンパニー制」 は、’94年4月に大賀典雄(おおがのりお)社長により導入された. しかし、 「カンパニー制」という概念にそぐわない研究開発部門までも同列に扱った 結果、研究開発部門は、各々のカンパニーから研究開発費を確保するため、カンパニーの収益に直結する様な近視眼的な研究に偏り、従来のSONYが作っていた様な商品につながる研究開発力が低下した.
 当然、「カンパニー制」 には、 "カテゴリー間の競争意識を高め互いにレベルアップする" 或いは、 "小回りの利くビジネスが出来る起動性を持たせる" 等の目的が有ったものの、 2005年のストリンガー体制で廃止された.
 2)商品開発の過剰なガラス張り化
 従来は、おおらかな予算管理により、次代の商品につながる様な商品開発も可能であったが(悪い意味ではない自由度)、 EVA (Economic Value Added) の導入により、厳しく投資対効果がフォローされる様になり、自由な開発が出来なくなった.
 3)垂直統合型の軽視
 従来は、基幹部品は自前で製造する等 「垂直統合型」 により、商品開発力等に強みが有ったが、VAIOでの「水平分業型」の大成功 により、「必要な部品は、得意とする所から買って来て、組み立てれば楽勝」 との考えに支配された.
4)硬直した組織
 実は、 「入社年次の強い縛り」 或いは、 「学歴重視」 が非常に強く( 「学歴重視化」 に関する記事はこちら)、その人事制度は、SONYのイメージとはかけ離れて硬直している. その中で、誰もがリスクを取らなくなり物事が全く決まらない状態やパワー・ポイントでのプレゼンテーション技術に長けるマネジメントが出世する様な公平感の無い組織となってしまった.
 何はともあれ、久多良木健SCE(ソニー・コンピュータ・エンタテイメント)社長がSONY社長にならなかった所に全てが現れているか.

4.Summary : 出井伸之(いでいのぶゆき)の’06年3月7日の退任以降、出井時代の10年に関する著書は非常に数多い.
 SONY凋落について、同じ光文社ペーパー・バックス・シリーズの 「ソニー病」 (当Blogの記事はこちら) が有る. こちらは、SONYに籍を置いた人も含むものの、ジャーナリスト, アナリスト等7名の共著のため、VAIOの開発に直接携わったエンジニアとしての本書の方が説得力が有る.

 一方、’05年11月発行の日経新聞社の 「ソニーとSONY」 は事実関係を整然と整理して解かり易いが、日経新聞との立場からか、非常に控えめな表現しかなされていない. その点、光文社ペーパーバックス・シリーズは、しがらみが無く、歯に衣着せぬ発言をしており面白い.
 例えば、SONY子会社のSony BMG 製造の音楽CDが、rootkitと呼ばれるソフトでユーザのパソコンのOSを改竄し、スパイ・ウェアをインストールしていた事件は海外では大問題となった(SONYが自社の音楽事業の著作権に考慮するがゆえ). しかし、この事件は、日本のマスメディアでの取り扱いは極めて小さく、上記「ソニーとSONY」にも記述はない.

 また、面白い話として、’05年11月の "ウォークマンA" の発表会の場で、ストリンガー会長兼CEO, 中鉢良治社長, 大根田伸行CFOが報道陣にかざした商品が中鉢社長以外の2名は 上下を逆さま に持って見せたらしい.
 iPodに対抗する 且つ、商品名として「ウォークマン」を 初めてつけた重要な戦略商品の "商品の顔" を会長が知らなかったとは、 「SONYのもの作りの軽視」 を象徴している.
 こつこつと積み重ねて、本記事で150冊目となりました.


「騙すアメリカ 騙される日本」 ・・・ 国富の巧妙な搾取 [仕事]


騙すアメリカ 騙される日本 / 原田 武夫
1.My Review Rank : ★★★☆☆ + 構造改革の真の意味
2.Published Data : ¥861, 285Page,筑摩書房,’05/12
3.Review Point : 本書の内容は以下に要約される.
 小泉首相が主導し、国民も支持する 「構造改革」(官から民へ) は、米国の意図で日本の市場を開放し、米国企業が日本の「国富」を米国本土へ移転するための地盤作り.

 80年代後半~90年代前半にあれだけ騒いだ 「日米貿易摩擦」 は、今や全く話題にもならない(この単純な疑問が本書のポイント).
 この疑問に対する官僚(優等生)の答えは以下の4点だが、本質的な所で、 「米国は日本に対し、正面切って圧力を掛け摩擦を起こすより、構造そのものを変える様に要求する方が得策」 (いわゆる「日米規制改革及び、競争政策イニシャティブに基づく日本政府への米国政府要望書」(当Blogの記事はこちら)) なる 米国の方向転換により、結果的に以下の様な環境に至った と考えるべき.

 1)国際経済の「モノ」から「カネ」(投資・金融)へのシフト
 日米間の形状収支自体への関心が低下した ⇔ 金融資本主義への転換は米国主導. 米国の思惑通り進み米国は90年代大繁栄を謳歌した.
 2)日本の米国商品貿易赤字での割合低下
 日本は1992年の58.7%から2004年は11.6%へ低下の一途を辿ったのに対し、中国は2004年26.2%でトップとなった ⇔ 日本の景気低迷は、米国主導の1985年のプラザ合意が引き金.
 3)日本企業の国際経済活動の低下
 平成バブル不況により、日本企業の国際的位置付けが低下した.
 4)WTOルールへの配慮
 世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する恐れが有るため、従来の「圧力を掛けて、譲歩を獲得する」手法を控えた.

 構造改革の中で、最大のポイントは 「郵政民営化」 により、郵貯・簡保マネー350兆円が市場放出される点.
 実際に、小泉首相が衆議院選挙で大勝した後、 "郵政民営化ほぼ確実"  且つ、 "350兆円の行き先は株式市場" と見た外国人投資家の買いにより、2005年後半から、日経平均株価が高騰した(株式を買うなら今!!).
 更に、我々は、その後に来るインフレにも要注意!!
4.Summary : 米国は、日本の市場開放のみならず、 「情報の非対象性」 (米国の情報はオープンだが、日本を含むアジア等の情報は様々な基準の差異によりクローズされた状態になっている)を是正するため、 「金融基準の国際標準化」 (企業活動のオープン化), 「BIS規制」 (銀行の「自己資本比率」を算出する国際ルール), 「インターネット普及」 (米国政府は全てのサーバーを開き、経由する電子メールを読む技術を有する), 「IMFプログラム導入」 (アジア通貨・経済危機によりアジアにIMFを送り込んだ) 等を次々に導入した.
 更に、一連の法制度変更による最新の米国経験・知識の有る専門家に対する需要急増を活用して、人的にも日本の隅々まで展開・拡散しようとしている.

 インターネットの普及に関して、面白い話をしている.1998年当時、日本の家庭でのインターネット普及率はまだ11.0%だったが、ここで米国は圧力を掛けず、当時既に普及率が57.7%に達していた携帯電話に注目した.
 マッキンゼー(米系経営コンサルティング会社)は、NTTに i-mode を提案した. リクルート出身の松永真里が主導して、i-mode を成功させた様に日本人は感じているが(この辺りの話は、松永真里の 「iモード事件」 に詳しい)、実は米国に操作されていたのではないかとのこと.

 最後に著者は、米国に対する"逆襲"のため4点を提案している.
 ①日本の本当の状況について、日本人の全てが知る(この様な本を読む).
 ②日本の比較優位な点を知る (情報の非対象性に注目した構造の面 或いは、得意とする能力(既存のルールを徹底してマスターし、現場で一致団結して行動する)).
 ③教育の改革 (初等教育では資本主義のイロハ、高等教育ではマーケットを取巻く人脈・金脈や政治的現実)
 ④米国のビジネス・モデルに習熟する (「利益確定モデル」).


「経済学的思考のセンス」 ・・・ インセンティブと因果関係 [仕事]


経済学的思考のセンス / 大竹 文雄
1.My Review Rank : ★★★★☆ + 三高の意味
2.Published Data : ¥819, 232Page,中央公論新社,’05/12
3.Review Point : 著者は 「経済学的思考法」 を以下の様に定義している.
 社会における様々な現象を、人々のインセンティブを重視した意思決定メカニズムから考え直すこと.
 "インセンティブ" と "因果関係" にポイントを置き、解り易く身近な例から導入し、身近な問題の「年金未納」, 「年功賃金と成果主義」, 「所得格差」 等について考察しており、かなりの構成力, 文章力を感じた.
 当Blogでも紹介した 「戦略的思考の技術-ゲーム理論を実践する」 (記事はこちら) と共に頭の体操としてお薦め.
 本書には、硬軟様々な「経済学的思考」の例が挙げられているが、我々の生活設計・人生設計に影響を与える「年功賃金の崩壊」について整理すると以下.

 年功賃金の存在理由は4点有り、各々問題点も持つ.
 ①人的資本理論
 理 由勤続年数と共に技能が上がるため、賃金も上がってゆく.
 問題点 : 足元のIT革命により、ベテラン労働者の技能が陳腐化し、若手の生産性の方が高い場合も有る.
 ②インセンティブ理論
 理 由 : 将来的な賃金上昇により、労働者の規律を高める(真面目に働かなかったら解雇する). 一種の供託金として機能.
 問題点解雇が困難な日本の大企業では難しい.
 ③適職探し理論
 理 由 : 企業の中で自分の生産性を発揮出来る職を見つけられる.
 問題点職種がそれほど多くない企業では適用出来ない.
 ④生計費理論
 理 由生活費が年と共に上がってゆくため、それに応じて賃金を支払う.
 問題点多様な家族形態と対応していない. 金融が自由化された現在、貯蓄を企業に委託するメリットは小さい.
 現在、「団塊の世代」を直撃している「年功賃金の崩壊」については、企業は ①の問題点の方を上手く利用する一方 ②(退職金も含む)と④を全く無視している(契約書は無いが契約違反の様なもの).
 団塊の世代はある意味被害者だが、我々はとやかく言ってもしょうがないので、自分のスキルUPに努めるしかない..
 
4.Summary : 導入部にある軟らかい話題の 「女性はなぜ背の高い男性を好むのか」 については以下.
 1950年代後半~1960前半生まれの女性が結婚相手の男性に求める条件として 「三高」 (高学歴・高収入・高身長) という言葉が流行した.
 ここで、 「高学歴」 と 「高収入」 とに相関が有る事は解り易いが、「高身長」 はただ単に見かけの話ではなく、 「身長プレミアム」(身長が高い程収入が高い)が存在すると考えるのが「経済学的思考」.
 米国・英国の調査では、身長が1インチ高いと、賃金が各々1.8%, 2.2%高くなる. 更に、身長が低い方から25%のグループと高い方から25%のグループの賃金差は13%以上になり、これは、白人と黒人との格差15%或いは、男女間の格差20%にも匹敵するレベルとのこと.
 最終的に調査では、現在の賃金を決める上で最も重要なのは、16歳の時点での身長とし、以下の因果関係としている.
 「身長が高いと青年期ての運動部への加入率が高まり、それが、社会に出てから組織を運営する能力(「困難にめげず、最後までやりぬく」, 「チームに貢献し、役割を果たす」 等々)の形成に役立っている」.
 また、男性の身長が高いと、自分の子供の身長も高くなり子供の所得も有利になる. 女性は本能的に高身長を条件の中に入れていた.

 なお、現在は 「三低」と言われるらしい. 「低姿勢」(⇒レディ・ファースト), 「低リスク」(⇒公務員などの安定した職業), 「低依存」(⇒相手を束縛せず、互いの生活を尊重する). バブル期は「高収入」がキーワードになり、雇用不安の時代には、「低リスク」がキーワードとなっているだけで、「収入」がポイントに変わりは無い.

 その他、 「美男美女は本当に徳か?」 (要因としては3つ ①雇用主の好み,②顧客が好む,③女優等容姿が必須), 「太るアメリカ人、やせる日本女性」 (調理時間の短縮⇒時間費用の低下), 「イイ男は結婚しているのか?」 (要因としては5つ ①分業仮説, ②労働意欲仮説, ③シグナル仮説, ④差別仮説, ⑤隠れた魅力仮説) 等の話題も面白い(恥ずかしながら、この手の話の方に興味を引かれた).


「下克上の時代を生き抜く-即戦力の磨き方」 ・・・ 40代への警鐘 [仕事]


下克上の時代を生き抜く 即戦力の磨き方 / 大前 研一
1.My Review Rank : ★★☆☆☆ + 大前節 健在
2.Published Data : ¥840, 208Page,PHP研究所,’06/04
3.Review Point : 本書は、創刊された 「PHPビジネス新書」 の 001番目(一冊目).
 初回として、大前研一, 御立尚資( 「使う力」 ), 堀紘一( 「突破力!仕事の『壁』は、こうして破れ」 ), 中谷巌( 「愚直に実行せよ!人と組織を動かすリーダー論」 )の4人を立て売れている(著名人にこだわった戦略は成功).
 本書に出てくる 「勝ち逃げ出来る50代、割りを食うしかない40代」 は、大前研一の他の著書にもしばしば出てくる言葉. なお、30代も、 「バブル期に高値で不動産を買い、ローンで喘ぐ人が多い可愛そうな40代」 と比べればましだが、その他は40代と殆ど同じ. 30代, 40代で、この手の本をまだ読んだことが無い人には、最低限の危機感を持つために一読をお薦めします.
 大前研一が即戦力として、3つを挙げている.
1)英語力
 いまさら言うまでも無い. 国境を越えて、ビジネスをする現在では必須事項.
 アジアでも、英語を公用語として教育に投資した シンガポール(リー・クワン・ユー元首相), マレーシア(マハティール・ムハマッド前首相), インド等は、欧米の投資により栄えている.
2)財務力
 難しい話ではなく、 「自分の家の財産のバランス・シート作りから始まって、最低限の投資に関する知識を習得しよう」 との話.
3)問題解決力
 「仮説」と「検証」とを繰り返して、結論を導く.

4.Summary : 今回、創刊された 「PHPビジネス新書」 は、PHP研究所の新書としては、 「PHP新書」 , 「PHPエル新書」 に続くなんと3種類目. 本を作る人は一生懸命で、内容の有る本も多いが、新書の創刊ラッシュが物凄い.
 この点について、佐野眞一が 「だれが『本』を殺すのか<上>」 , 「だれが『本』を殺すのか<下>」 (この本も本好きの方にはお薦めです)で、現在の出版業界の問題点を指摘している.
 2003年の出版物総販売額は対前年比3.6%減となり、97年以降、7年連続で前年の売上額を下回った. しかし、2003年の書籍の新刊点数は7万3千点にも達した. これは、200点/日にもなり、95年の5万8千点からは25%以上の伸びとなる. この原因は以下.
 取次(絶大な権力を持つ)は、出版不況を理由に版元からの引受部数を削る. 配本部数を減らされた版元は初版部数を絞る. 版元は売上げを確保するため、初版部数のマイナス分を出版点数の増加で凌がざるを得ない.

 新刊点数の増加により、新刊は、書店に1週間も留まらず返品される(返品率は38.8%). 出版社としては、如何に人の目に止まる様にするかに腐心することになるが、新書には、新書コーナーが有り、そこに比較的長く留まるため、店頭の場所取り合戦の結果として新書ラッシュとなっている.
 従来は、新書御三家として、「岩波新書(岩波書店)」 , 「中公新書(中央公論社)」 , 「現代新書(講談社)」 のみだったが、その後、 「文春新書(文藝春秋)」 , 「ちくま新書(筑摩書房)」 , 「平凡社新書」 , 「光文社新書」 , 「角川oneテーマ21(角川書店)」 , 「kawade夢新書(河出書房新社)」 ,  「宝島社新書」 , 「新潮新書(新潮社)」 , 「講談社+α新書」 等 続々と出版されている.

 出版業界全体の問題点は以下の2点.
①再販売価格制度
 競争原理が働かない. このため、サービス向上が図られない. 業界の固着・寡占により、自らが変わろうとする危機感が無い.
 Amazonでは、5千円購入で250円、1万円購入で5百円の「ギフト券」が貰える(実質値引き(期間によってはキャンペーンで各々5百円, 千円になる)).
②取次中心の流通構造
 本の流通は、業界内で絶大な権力を有する取次(大手では、日販,トーハン等)を中心とした古い構造. また、版元, 書店も旧態依然とした流通構造に安住している.
 書店に欲しい本を注文すると、2~3週間待たされるのは当たり前. 待たされた挙句に、「現在在庫切れです」の場合も. 全くの消費者無視(読者).
 Amazonでは、注文後、24時間以内に「発送しました」とのメールが来て、次の日には届く.

 最後は「即戦力の磨き方」からかなり逸れてしまったが、従来構造にしがみ付く大手取次 や まだ会長が強気の発言をする紀伊国屋書店 がAmazonを恐れて無視出来なくなる日は遠くない.


「『ニート』って言うな!」 ・・・ ニート問題をスッキリ整理 [仕事]


「ニート」って言うな! / 本田 由紀内藤 朝雄後藤 和智
1.My Review Rank : ★★★★★ + ステレオ・タイプでない視点
2.Published Data : ¥840, 310Page,光文社,’06/01
3.Review Point : 本書はニート(NEET:Not in Education,Employment or Training)問題に関わるマス・メディア, 政治, 世論 等の本質を鋭く分析し、本当の問題点とその対策案を真摯に検証した良書. 絶対にお薦め. 本書を読むと一般的に言われているニートに関する言説の底の浅さを感じます.
 本書は、本田由紀(教育社会学者:東京大学大学院情報学環助教授), 内藤朝雄(社会学者:明治大学専任講師), 後藤和智(東北大学工学部建築学科(在学中))の3名の共著.
1)ニートの定義・イメージの誤り
 本田由紀は、ニートの定義と労働需要側の問題を指摘している.
 (1)ニートの構図
 ニートの内部と外部の構図を以下の様に整理している.
 A層 : 失業者でない層(自分の居場所の有る層) ・・・ 正社員, 学生, 主婦.
 B層 : 職が無い或いは、不安定な層 ・・・ フリータ, 失業者(求職の意思有り).
 C層 : 働く意思は有るが、職を探していない層 ・・・ NEET非求職型(実質的にはBと一体)
 D層 : 今は働く必要・予定が無い層 ・・・ NEET非希望型.(家事手伝い,教育機関入学準備 等)
 E層 : 働く意欲が無い層 ・・・ NEETのメインイメージ層.
 F層 : 問題層(ひきこもり,犯罪親和層) ・・・ NEETのネガティブ・イメージ層(マスメディアが飛び付く話題).
 (2)誤った解釈・イメージ
 現在、ニートと呼ばれているのは上記のC層~F層(B層とC層との間に強い線が引かれている). 例えば、ニートは48万7千人の巨大な規模で(2002年)、全員に働く意思がなく、だらしなく生きているとのイメージが出来上がっている点が問題. 具体的には以下.
 問題点① : B層とC層とは、 「安定した就業機会の不足」 との同じ原因から生まれた連続した層で、フリータとニートとの間の線引きは、現実を誤認識してしまう(対策を誤る) . 実際には、フリータ⇔失業者⇔ニートで、ぐるぐると行ったり来たりしている層も多いと考えられる.
 問題点② : 現在の議論は、 「働く意思が有るか、無いか」が人間に対する絶対的な評価 になっている. 特にD層には、多様な生き方を選択している若者が含まれるが、その生き方に対する思考停止が起きている.
 問題点③ : F層の「ひきこもり」や「犯罪親和層」がイメージ的にニート全体に拡大適用され、ネガティブな印象がニート全体の若者に当てはめられている.
 (3)労働需要側(企業)の問題点
 上記の①~③の様に、問題の本質を見誤り、ニートに対する 「働こうとしていないんだから、本人が悪いんだろう」 とする事によって、労働需要側の問題ではなく労働供給側の問題とされ、若者の自己責任に全てが還元されている.

2)ニートを自分の都合で利用する魑魅魍魎(ちみもうりょう)
 内藤朝雄は、P125で、「殺人検挙者数」、P127で、「強姦検挙者数」の推移を1950年代から示し、過去と比較し、1980年代以降の両検挙者数は、各々四分の一, 十分の一に激減しているデータから、ニートを自分の都合の良い様に利用するマス・メディア, 政治等を厳しく批判している.
 (1)マス・メディア  : 所詮、マス・メディアは視聴率優先の世界. 視聴者が喜ぶ話題で有ればOK. ニートもマス・メディアが視聴率を稼ぐための「商品」に過ぎない.
 神戸の酒鬼薔薇聖斗の大ヒットで味を占めたマス・メディアは、幼女誘拐・殺害事件等でも、パラサイトシングル, 引きこもり 等の若者ネガティブ・キーワードで商品作りをしている. 「青少年の凶悪化」, 「社会性を失った若者」, 「キレる若者」 等社会の不安を煽る話題作りに邁進した.
 (2)世論社会の構造が大きく変わる際には、あるグループがターゲットとされ、集中的に非難・攻撃される. そのグループは、人生の経験が浅い人, 老いた人, 所属しない人, 交わらない人, 理解や共感が出来ずに不安感を与える人 等で、ニート問題については、人生経験の浅い若者(更に、茶髪やピアス等で見た目も異った)が、終身雇用,年功序列の崩れ 等で不安の蔓延する社会から総攻撃された. 人生経験の浅い若者は、攻撃されたとしても、「自分が悪いのかな」としか思えない.
 (3)政治 : 若者の20%にも迫る失業率が最も問題で有るにも関わらず、若者の自己責任に問題をすり替え、政治責任を回避している. 更に、この様な若者を作ってしまった問題は「教育」に有り、教育を通じて、管理強化に繋げようとしている.
 (4)団体関係 : ニート問題が祭りの様になり、利権が発生している. 若者の就職支援になると予算が付くため、ニート問題を大きく宣伝して予算獲得しようという団体が出てくる.
4.Summary : ニートとの言葉の歴史を以下の様に説明している.
 2003年3月に当時の日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構(以下、JIL))は、報告書の中で、英国での労働問題のNEETが、日本にも有ると初めて紹介した. その後、JILは2003年10月に独立行政法人化され、組織の存在意義のため、世論の注目を集める様な研究成果として、ニートをしばしば取り上げる様になった.
 2004年7月に、玄田有史の「ニート-フリータでもなく、失業者でもなく」(幻冬舎) がベストセラーとなり、カタカナのニートが認知される様になった.
 その後は、上記の様に、定義が曖昧化する中、ネガティブ・イメージのニートに対して、様々な人が群がり、自分の都合の良い様に利用し、その結果、若者だけが損をした. 


「円の支配者」 ・・・ 日本銀行 vs 大蔵省 [仕事]


円の支配者 / リチャード・A・ヴェルナー
1.My Review Rank : ★★★☆☆ + 量的緩和解除の真意
2.Published Data : ¥2100, 382Page,草思社,’01/05
3.Review Point : 日銀は、今月 2006年3月9日 の政策委員会・金融政策決定会合にて、約5年前の2001年3月19日 に導入した 「量的金融緩和政策」 を解除すると決め、即日実行した(政府と衝突しながらも実施).
 翌3月10日の日経新聞でも当然1面から数ページにわたり大きく取り上げられたが、本書を読んでいる人ならば、日銀がまた日本国の舵を大きく切った と感じるだろう. 本書の主張は以下に要約される.

 「日銀は、戦後日本の経済体制では法的に大蔵省に従属的位置付けだったが、大蔵省の強大な法的権力を覆すために、大蔵省へ非難が集中する様に、バブルの創造と崩壊を演出し、その後も15年にもわたり、意図的に経済を回復させなかった(量的金融緩和をしなかった). 景気調整は、金利政策や財政出動よりも、マネー・サプライ(通貨総量)の影響を受ける.」

 現在、この日銀の目的は見事に達成され(詳細はSummary)、日銀が突然実施した約5年間の「量的金融緩和政策」は、民間経営者の意識改革も伴いながら、日本経済回復の目処をつけた.
 それでは、金融政策に強大な権力を持った日銀が今回実行する「量的金融緩和政策」の解除の意図は何か. 素人の私が考えるに、失われた15年で民間企業が大きく変化せざるを得なかった様に、日銀は、今度は公的部門の構造改革(小さな政府化, 官僚全体の無力化)を狙っているのではないか. 現在は、一時的に景気回復しているが、日銀の考える日本国の構造改革に伴い、更に一段の痛みが発生する可能性も覚悟する必要が有る.

4.Summary : バブルの創造・崩壊, 景気の長期低迷に関して、具体的なトピックスを時系列に並べると見事に符号する.
 日銀は、1985年のプラザ合意を受け、内需拡大のため、マネー・サプライを増やした. ジャブジャブの金は株や土地へと流れ込むしかなくバブルが発生した.
 1989年5月に日銀は、金融引き締め政策へ転じ、以降短期間に5回もの公定歩合の引き上げを実施し、引き締めに大きく舵を切った(日経平均は、1989年12月の大納会の引け値で史上最高値38915円).
 1990年4月には、土地取引の「総量規制」が実行され、バブル崩壊へのダメ押しがされた. この1990年代、日銀は「マネーの需要が無いため、マネーを供給する必要はなし」と主張し続けた(このため、銀行は貸し出しを絞り、中小企業が多数倒産したと言える). また、失業率が増加しようとも、自殺者が増加しようとも政策を変えなかった.
 長引く不況により、1997年11月に、三洋証券(3日), 北海道拓殖銀行(17日), 山一證券(24日), 徳陽シティ銀行(26日)が相次いで倒産した.
 これを引き金に橋本内閣にて、金融行政の構造改革が議論され、1998年4月1日に日銀法が改正された. この改正により、金融政策は日銀に委ねられ、金融部門の規制も金融監督庁(日銀出身者が重要なポジションを占める)が行うようになり、日銀は強大な権力を持った.
 日銀のライバルの大蔵省は2001年1月5日に完全消滅し、日銀が全面的に勝利した. その僅か2ケ月後に(景気の本格回復を目指して)上記の「量的金融緩和政策」を実行した.

 本書に対しては、後付けの陰謀論的との批判も有るが、過去を振り返り考えることも必要かと思う. 読み物として面白いし、中央銀行の機能が良く分かる(素人ではついて行けない所も有るが).


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